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遺産分割協議に臨む心得

2010.07.01

相続発生後の一番の紛争場面は、親族間の遺産分割協議の場です。
分割協議では、誰かの取り分が多くなれば、その分別の誰かの取り分が必ず少なくなるわけですから、そういう意味では常に利害の対立が起こることになります。「もめるな」という方がそもそも無理な話かもしれません。
しかし、全員で合意できなければいつまで経っても誰も遺産には手をつけることができません。それでは誰も得をしませんし、将来にまでずっと問題を抱え続けることになります。
では、遺産分割をもめずに円滑に行うにはどうしたらいいのか?その基本的な心得を幾つか伝授したいと思います。

 

≪最初から「法定相続分」を持ち出さない≫
遺産分割協議がもめる原因の一つに、最初から「法定相続分」を持ち出す人が出てくることが挙げられます。“法定”と聞くとそれが法律上の義務であり絶対の権利であるかのような気がしますが、そんなことはありません。相続人全員が合意すれば、どんな分け方をしても構わないのです。法定相続分は、あくまでも遺産分けの1つの目安でしかありません。もっと言うと、相続人同士の話し合いがつかない場合に、最後の最後に持ち出す割合でしかないのです。家庭裁判所での審判となったときには、この法定相続分に基づいた判断が下されることになります。つまり、『法定相続分=法廷相続分』だと思っておいた方がいい代物なのです。
民法では、『遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする』と規定しています(民法第906条)。単純に「法定相続分が自分の権利だ」などと言わずに、色々な事情を考慮して分けなさいとしているわけです。
遺産分割の冒頭でいきなり法定相続分を持ち出したのでは、まとまる話もまとまらなくなってしまいます。「法定相続分」を持ち出す前に、「分割の基準」をお互い熟考しましょう。幼少時代に兄弟姉妹でケーキを切り分けたときも、きっと各々の年齢や好みを考えて分けたはずです。それと同じ心配りが、遺産分割協議でも必要だということです。

 

≪幹事役を決める≫
幹事役の不在がもめる原因となっている場合があります。つまり、行司役の不存在です。各相続人の意見を交通整理して、協議全体をいい意味で取り仕切る人物を決めます。この幹事役は相続人の中から選んでもいいのですが、相続人は元々利害が対立する人達ですから、その対立が浮き彫りになる危険性も秘めています。相続人の中から幹事役を選ぶときは、選ばれた人は自分の主張をある程度抑える覚悟が必要になってきます。それが出来ない人を選ぶべきではありませんし、出来ない人は自ら幹事役に名乗り出るべきではありません。
そういう意味では、幹事役は利害関係のない人を選ぶのがベストな選択と言えるでしょう。ただし、それをいきなり弁護士に依頼すると遺産分割はギクシャクするケースが大半です。最初から相続人同士で話し合いをすることを放棄してはいけません。突然、弁護士から連絡があれば、誰しも平常心ではいられなくなります。「何でいきなり弁護士なんだ!?」と、相手の怒りを買うことは必至です。「そっちがそうくるのなら、こっちも弁護士を立てる!」となりかねません。
まずは相続人同士で一旦話し合ってみること、そして第三者に調整役を依頼するときは、タイミングを計った上で相続人全員の合意の基に依頼する方が賢明です。

 

≪相続人以外の人間に口を出させない≫
たまに見受けられるのが、相続問題に相続人の配偶者が口を出してくるケース。配偶者は、相続人にとってはこれ以上ない強力な援軍です。「兄弟姉妹は平等なはずだ」と言う配偶者がいれば、別の配偶者は「あなたは長男なんだからもっと貰って当然よ!」と言う。兄弟姉妹が激しく争っているように見えて、実際にはそれらの配偶者同士の代理戦争になっている場合さえあります。一般的に、配偶者が相続に口を出してくると益々話はややこしくなります。配偶者には悪気はないんでしょうが、まとまる話もまとまらなくなるのです。
また、相続人の子供達が口をはさんでくる場合もあります。子供達は次の相続時に親の財産を引継ぐわけですから、間接的な利害関係者となるわけです。「もっと貰っていいんじゃないの?」と親の尻を叩く子供も結構います。
更に、旧家や親類縁者の多い家などでは「本家のおじさん」とか「分家の代表」などと言って、相続に口を出してくる例もあります。これは、都会よりは田舎の方にそういった傾向がより強いように感じます。
相続はあくまでも相続人の問題です。極論を言えば、相続人以外の人間には何の関係もない話なのです。配偶者や周りの人の意見を求めるのは一向に構いませんが、協議の場にそういう人たちの意向が強く反映されると、相続問題は間違いなくもめます。相続人は自ら主体性を持って相続に臨みましょう。

 

≪一度決めたことを蒸し返さない≫
「隣の芝生は青い」というのは相続でも言える事です。「自分の相続分よりアイツのほうがいいモノを貰ってる」とか「アイツの貰った土地が値上がりしそうだ」とか、自分が相続したものより他人が相続したものの方が良く見えたりするのです。
しかし一旦決まったことに異を唱えることは避けましょう。そうしないと収拾がつかなくなり、いつまで経っても紛糾したまま、ということにもなりかねません。

 

≪感情に任せて昔の話を持ち出さない≫
相続の現場でもめてくると、必ず昔の話を色々と並べ立てる人が出てきます。そして、誰かがその手の話を持ち出すと、ほとんどのケースで、言われた方も同じような反撃を始めます。そうなると、争いは徐々にヒートアップしていきます。
相続人の追及は税務署よりも怖いとさえ言われています。自分達の昔の進学費用や結婚資金の話に始まり、マイホーム取得資金やリフォーム資金、あるいは子供の入学資金や結婚資金の話、果ては車の買換えのことまでお互いに知り尽くしていますので、誤魔化すことができません。相続人には、税務調査官以上の調査能力があると言ってもいいでしょう。一旦追及を始め出すとお互いそれをかわすことなどできず、まるでノーガードで殴り合うボクサーのような状態に陥ります。そして、いつの間にかお互いの“人格”を攻撃し合うことになるのです。
感情のまま頑なになって必要以上に昔の話を持ち出しても、何の得もありません。ましてや、相手の人格を攻撃するなど論外です。例えば自動車事故における示談と同じで、分割協議もお互いの歩み寄りがなければなかなか上手くまとまりません。お互いに歩み寄れる余地を常に残しながら話し合いを進めていくためにも、昔話はほどほどにしておきましょう。

 

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筆者紹介

江頭 寛
福岡相続サポートセンター
代表取締役社長

生前対策から相続発生後の申告・納税に至るまで、皆様から寄せられる無料相談への対応や、希望する幸せな相続の実現に向けての対策立案と実行支援を、弁護士・税理士・司法書士・不動産鑑定士等の先生方をコーディネートしながら日々やらせて頂いてます。お客様にとってベストな相続並びに資産の有効活用を徹底的にサポートすることが私の最大の使命です。また、相続対策セミナーも全国各地で積極的に開催中。まずはお気軽にご相談ください。

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